GM-CSF Inhalation Promoting Organization

GM-CSF吸入療法について

GM-CSFを吸入する量と期間はどのくらいでしょうか?

前のページに書いたように、吸入したGM-CSFが効くのは、一部が肺胞に到達して、弱った肺胞マクロファージの機能を回復させるため1とされています。では、弱った肺胞マクロファージは、何週間ぐらい吸入すれば回復するのでしょうか?

重症の患者さんにこの治療を行った経験からすると、1日250μg(1vial) を吸入1週間、1週間休薬を12サイクル(つまり24週間)繰り返すと、約50%強の患者さんが、吸入治療に反応して動脈血酸素分圧が改善します。さらに改善が不十分だった患者さんに1日500μg(2vial)を12週間吸入投与すると、そのうちの30%くらいの患者さんが吸入治療に反応して動脈血酸素分圧が改善します(日本呼吸器学会誌13(4),2024)。しかし、500μg(2vial)への増量は保険診療が認められていないのでご注意ください。

GM-CSFは高価なので、まず、250μgを隔週吸入して、効果が不十分なときに増量して吸入するのがよいでしょう。

  1. “指定難病「自己免疫性肺胞蛋白症」の病因解明にもとづく新しい治療法の開発 ―国内初のサイトカイン吸入療法―”. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構. 2019-09. https://www.amed.go.jp/news/release_20190905.html , (参照 2023-11-20) ↩︎
吸入治療のスケジュール

吸入治療が効き始めるのは、患者さんによって個人差があります。12週間で回復の兆しが見えて、12週から24週で効果がでる人もいるという気長な治療です。決して焦ってはいけませんし、24週間吸入して効果が乏しければ、担当医とよく話し合って、全肺洗浄法といった他の治療を選ぶか、GM-CSF吸入療法をさらに長く続けるかということを決めてください。

GM-CSF吸入療法のフローチャート

ノーベルファーマ社が発売しているサルグマリン添付文書には、以下のように書かれています。

用法及び用量

通常、成人にはサルグラモスチム(遺伝子組換え)として125μgを1日2回、ネブライザーを用いて7日間連日吸入投与し、7日間休薬する。これを1クールとし、投与を繰り返す。

用法及び用量に関連する注意

12クールを目安に有効性及び安全性を評価し、投与継続について判断する。投与継続する場合は、定期的に有効性及び安全性を評価し、投与継続の可否を判断すること。

はじめてGM-CSF吸入療法を行うドクターは、これを読んでもどういうふうに患者さんに治療してよいのかイメージが涌かないかもしれません。そこで、一例として、以下のような治療の流れを提案しました。

解説
  • 対象の患者さんは、自己免疫性肺胞蛋白症の診断が確定している患者さんです。公的医療費助成受給者が望ましいです。
  • 【評価1】にあるように、治療前に安静臥床仰臥位で5分室内気呼吸してもらってから、動脈血採血をして、A-aDO2を測定しましょう。
  • 1日1vial(250㎍)を吸入を7日間連日行います。そのあと、7日間休みます。「7日間吸入+7日間休薬」を1クールとして、12クール(24週間)治療します。
  • 【評価2】にあるように、24週後に【評価1】と同様にA-aDO2を測定します。ベースライン【評価1】のA-aDO2と比較して、10mmHg以上改善していれば、寛解維持療法に進み、10mmHg未満であれば、1日1vial(250㎍)吸入7日間吸入+7日間休薬を6クール(12週間)行います。
  • 【評価3】にあるように、36週後に【評価1】と同様にA-aDO2を測定します。ベースライン【評価1】のA-aDO2と比較して、10mmHg以上改善していれば、寛解維持療法に進み、10mmHg未満であれば、1日1vial(250㎍)吸入7日間吸入+7日間休薬を6クール(12週間)行います。
  • 【評価4】にあるように、48週後に【評価1】と同様にA-aDO2を測定します。ベースライン【評価1】のA-aDO2と比較して、10mmHg以上改善していれば、寛解維持療法に進み、10mmHg未満であれば、それ以上吸入治療は進めず、全肺洗浄法を試みて下さい。
寛解維持療法について

12クールの吸入治療により寛解に入っても、さらに24週間経過観察していると、多くの症例でA-aDO2が再悪化します(日本呼吸器学会誌13(4),2024)。
そうした例では、再度12クールないし24クールの吸入治療を行い、ベースラインのA-aDO2と比較して、10mmHg以上改善していれば、寛解状態を維持する目的で通常よりも少ない用量で吸入治療を続けることを考えてもよいかもしれません。方法の例としては、1日目に午後6時にサルグマリン1vialを規定の生理食塩水で溶解し、125μℊを吸入します。残りは冷蔵庫に保存し、2日目の正午までに残りの125μℊを吸入します。これを月に2回行い、12カ月繰り返します。寛解が維持されている場合、同様の2日間の吸入を1か月に1回行い12カ月繰り返し、それでも寛解が維持されていれば、同様の治療を2カ月に1回、1年行います。
寛解が維持されているか(ベースラインからのA-aDO2の改善が10mmHg以上であるかどうか)を定期的に調べることをおすすめします。
寛解が満たせなくなったときには、もう一度250㎍を7日間吸入+7日間休薬として12クールくりかえすか、全肺洗浄後の維持療法を行うという選択があります。